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工房の作業日記 

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E線の開放弦裏返りに対する調整および弦の張力について

調整

バイオリンを弾いているとE線の解放弦を含む和音や、パッセージ中にA線からE線の解放弦へ移行するとき音が裏返る時があります。
特にバッハの無伴奏を弾いている時などにそれで苦労した経験がある方も多いのではないでしょうか。そのような音の裏返りが気になるというお客様の楽器の調整。

原因としては上ナットの溝に問題がある、駒にしっかりと振動が伝わっていない、弦の張力が強すぎるなどが考えられると思います。また弦の選択も非常に重要だと思います。

まず上ナットの溝が広くなりすぎて振動がぶれていると思われたので上ナットの溝の修正
(修正前)
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(修正後)
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同様に駒の溝の修正およびチューブを取り外し、羊皮紙を貼るということをしました。
(修正前)
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(修正後 弦も替えた後の写真ですが)
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上ナット、駒の溝の修正作業だけでも大分症状が良くなった気がしましたが、まだ少し気になったので、弦を替えてみることにしました。

現在、音の裏返りを防ぐという特徴を押し出した弦がいくつか出ています。
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まず一つ目はダダリオ・ソリューション
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ボールエンド専用であり、Hillタイプのアジャスター(ループで引っ掛けるタイプのもの)を装着している場合のための取り付け金具もついています。Hillタイプの方が弦の張力は強くなるので、そのことも考慮してでしょうか。開けて張る時に感じると思うのですが、非常に柔らかい弦です。

二つ目はワーシャル・アンバー
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面白いのですが、一部がコイル状になっていて、この構造が裏返りを緩和するとのことです。
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コイル状の部分は弦を張って伸ばすとまっすぐに伸びます。
ただ少しだけ波打っている感じが張っても残ります。大体3ポジ4のレの1オクターブ上のレ(ポジションを数えるのが面倒くさいです(笑))~指板終わりくらいまでの区間でしょうか。
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コンチェルトなどではこの辺りの音も結構あると思いますが、特に抑えにくさや音の出しにくさは感じないです。


E線開放弦の裏返りに対する効果としては、ダダリオ・ソリューションの方がより効果的と感じます。
お客様の楽器は非常に裏返りやすい楽器でしたので、こちらを張りました。
ただ、ワーシャル・アンバーも普通の弦に比べると、非常に音の裏返りが起きにくいです。

音色を比較するため、自分の楽器でも2つ張って比較しました。別のお客様ですが、県外の音大に通っておられる方にレビューをお願いしました(ありがとうございましたm(__)m)。
どちらかというとワーシャル・アンバーの方が、音が出しやすく、音色・バランスなども良いと感じるとの事でした。

ただダダリオ・ソリューションもワーシャル・アンバーも特殊な作りだから音に変な特徴が出るというわけではなく、むしろどちらも音色・音量・残響感なども含め非常に優れた弦だという印象があります。裏返りには明らかな改善がみられますし、選択肢の1つとして良いと思います。
うちでも扱っています。ダダリオの方は張る時に少し注意点もあるので、試されたい方はご相談ください

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弦の張力ネタのついでにもう一つ。写真の楽器につけている変わったテールピースに気づかれた方もいると思います。このテールピースは低音側G、Dの弦の張力を強くし、A、Eの弦の張力を低くする効果があります。弦の張力を上げると、簡単に言えば音の強さ・張りが増す反面、少し柔らかさが減ります。

演奏者側としての個人的な意見は、ソロの曲などでG線ののハイポジションで迫力のある強い音で表現したいときなど、特に弦の張力を意識します。D線の5ポジなどの表現にも似たような事が言えると思います。あまり柔らかすぎる音より少し窮屈なくらいの張りがあったほうが、個人的には好みなのですが、そこはそれぞれの奏者次第だと思います。

先に述べたアジャスターの事、Hill型のアジャスターとL型のアジャスターの違いもE線の弦の張力を変えるため(Hill型だと張力が強くなりL型だと低くなる)、自分の音の目指す方向性、楽器との相性などを加味して選択には慎重になるべきでしょう。
E線の張力を下げると、フワッとした残響感は増し柔らかい音色になる反面、少し強さが少し失われます。
一長一短なので、各奏者の目指す音をよく理解したうえで調整するようにしています。音の事を言葉で表すのは難しく、人それぞれ意外とイメージしているものは違うものなので、そこも調整の際は注意しています。

ちなみに各弦の張力というのは他の弦にも大きく関係し、G,Dの張力とA,Eの張力のバランスも楽器全体に大きく影響するので、そのあたりの調整には楽器それぞれの特性にあった調整・選択が必要になってきます。

この前、ヴィオラのテールピース交換の仕事がありましたが、テールピース本体の長さにも様々なものがあります(特にヴィオラ)。テールピースは楽器に合った長さのものを合わせる他、裏なども削って調整したり、アジャスターの組み込みなどもしっかりとした合わせが必要になります。テールガット(テールロープ)の長さ設定も調整では非常に重要な要素です。
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最後に簡単にですが演奏会の紹介。ヴァイオリニストの柳田さんは、自分がヴァイオリン製作を最初に学んだ東京の学校の演奏の方の先生とお知り合いで、その伝手で知り合いお客さんとして来ていただきました。面白い所で繋がっているものだなと感じました。山形大学音楽芸術コースで学ばれ、一度コンサートで演奏も聞かせていただいたことがあるのですが、素晴らしい演奏をされる方です。
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Cosmos Concert(コスモス・コンサート)
ヴァイオリン:柳田 茜さん
ピアノ:佐藤 映さん
ゲストヴァイオリン:山森 陽子さん
10月16日(金)18:30開場 19:00開演、17(土)13:00開場 13:30開演 
於)瑳蔵 TEL:023-610-7126
全席2000円
曲目)・ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第1番 ニ長調
・チャイコフスキー ドゥムカ
・サラサーテ ナヴァラ
・クライスラー 中国の太鼓
・日本の秋の名曲選
・サラサーテ アンダルシアのロマンス(16日のみ)
・ラフマニノフ ヴォカリーズ(17日のみ)

です。また近くなったら改めて宣伝させていただくと思います。







by yasutomi-strings | 2015-08-05 20:21 | 調整修理

山形市で弦楽器の修理、毛替え、製作、販売を行う工房です。HP: http://yasutomi-strings.com/ 


by narumi
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